マーブル模様サツマ芋のように腫れた指と、ボロボロに皮が剥けた手のひらをじっと見つめてみる。テーザーワールドが終わった。あっという間の9日間。ホッとしている気持ちと、なんだかちょっと寂しい気持ちが奇妙に入り交じってマーブル模様になっている。でもいいんだ、しばらくはマーブル模様の中を漂って、プレッシャーのない日々を楽しむんだ。
わたしは今日から仕事に復帰。 (いや復帰はできていないけど・・・) なんだかまだぽわーんとしていて、これが本当に現実なの?と疑いたくなってしまう。周りで忙しく働いている人たちが、別の世界の違うイキモノのように思えてきてしまうのだ。そして、本当のわたしも浜名湖に置いてきちゃったような気がして、何だか急に居心地が悪くなってしまった。
朝から晩までずっとヨットのことだけを考えて、食べても食べてもどんどん燃焼し、最終日には体重が3キロ近く減。あちこち痛いところだらけだけど、わたしは毎日恐ろしく満ち足りていた。はじめはワールドという場に酔ってしまって、飲み込まれそうな感じもあったけど、すぐに勢いよく流れる渦の中に同化し、日常からスルリと抜け出してしまった。
レースの亊をいろいろ書こうと思っていたんだけど、克明なレポートはもう書けそうにない。だってだって、風待ち・ノーレース・ゼネリコの嵐・しかも長いコース (トライアングル+上下を2周) で1日3レースとかあると、上りレグだけでも1日12回。断片的には覚えているけれど、どのスタートの時どんなコースとったかの組合わせはまるでパズル。レポートを書こうとノートパソコンまで持ち込んだのに、宿に帰るとヘロヘロで、「○月×日 第△レース スタートは、えー下有利・・・。」 ZZZZZ。気づくと朝、といった具合。
それでもレースを重ねるごとに新しい発見があって、子供のようにどんどん吸収し、影響を受け続けた。
プラクティスレース 9月も下旬に差し掛かったというのに真夏のような暑さ。外国人選手がウヨウヨしている。フランクおじさん(フランク・ベスウェイト氏:テーザーの設計者)もひょろっとした長身で元気にハーバー内を闊歩している。熱射病になりそうな暑さなのでホースで頭から水をかぶって、いよいよプラクティスレースへ。このレースの結果によって5つのディビジョンに分けられ、それぞれのディビジョンの中(同じようなレベル同士)でも順位を争うことになる。
今回我がヨット部は、所有している2706,2708の2艇と稲毛フリートとの相乗り2艇の合計4チームで参戦。わたしは3月からお世話になってきた稲毛の2615・Tiki号にクルーとして乗り込むことになっている。
いい南がバンバン吹いている。ガストで17,8ノットといった所。気合いを入れて出艇。レース海面に到着すると、当たり前だけど、テーザーがいっぱ〜い!「神風」とか「一番」とかいうハチマキをした外人もいる。金髪の可愛らしいクルーも何やら漢字熟語が書いてあるりりしいハチマキ姿。ん?何て書いてあるの?良く見てみると「彼氏募集中」・・・(-_-;)。漢字なら何でもいーのか?!。
予告信号が揚がるといよいよ緊張して涙目になる。泣いてるんじゃなくて、緊張のあまり涙が浮かんでくるのだ。訳もなく「ハハハァ〜」と空気漏れしたように口元だけ笑い、涙を浮かべた目。殆どアブナイヤツ。とにかく同じ艇種80艇という数でのディンギーレースなんて初めてだから、人酔い?しないように混雑に慣れることが必要。下ワッチを重点に置き、「今日は特別なことはしなくてもきちんとマークを回って帰ってこよう」と自分に言い聞かせ深呼吸をする。
まず驚いたのは、コースの長さ。上マークが見えない!腹筋がバーストしそうだ。吹いているので、動作系ミスを減らすために、細かい振れでのショートタックは避け、フリートから離れずマークまで思い通りのアプローチをすることに重点を置いてみる。1レース終わって1時間半のレース。とにかくあまりのキツさにもう逃げ出したい気持ち。プラクティスなので2レース目はパスする人もチラホラ。うーっ。ワールドのレースってこんなにきついのかぁ〜?。これで5日間も持つんだろーか。すでに腕が上がらず太股プルプル・・・。
2レース目はちょっとだけ風が落ちて来た。それでもフルハイクでもちょっと逃がす感じ。真ん中からまぁまぁのスタートを切り、1上はなんと!10番目くらいで回航。優勝候補のダーウィンボーイズ・ベン&トーマスと同じレグで(笑)ミートしたのも終わってみればこのレースのみ。2上レグで、競っているフリートから離れて逆タックを長く走ってしまい、結果的にこれで順位を落としてしまう。鉄則!集団は正しい!特に上位を走る集団は尚更。まぁ他にも細々したミスはあって、その日の反省ノートには、
・風拾いだけでなく他艇とのポジションももっと見ること。
・下回航前のギアチェンジが早い。もっとギリギリまで我慢。
・楽したければバングをもう一踏ん張り引く!
・プレーニング中はもっとバランスに集中!
・しょっぱくても上りでツバを吐くと自分にかかる(-_-;)などと書かれていたのであった・・・。成績は、真ん中より後ろぐらいだと思っていたが、予想以上の出来で25位!これは快挙?。くたびれてレロレロなんだけど、美味しいビ〜ルが飲めちゃうゴキゲンな夜となる。とにかく腕試しのつもりが、一番キツかったプラクティスレースであった。
夕方からすごくきれいな夕焼けの中、開会式を行い、その後青年の家の食堂にて大ウェルカムパーティ。選手だけでも160人程、関係者も合わせるとかなりの人数。これから一週間、この面々とレースしたり飲んだり騒いだりするのだ。ワクワク。
1日目・いよいよ本番〜! 朝からどんよりとした曇り空。時々パラパラっと雨粒が落ちて来る中、いよいよワールドの本番が始まった。6:30起床、言葉少なに支度を済ませ、7:30宿舎になっているホテルを出発。
当日の朝って、一体どんな気持ちなんだろ?ずっとずっとそんなことを考えて来た。葉山ワールドのスタートシーンの写真を見ているだけで、緊張して心臓がきゅーんとなったりしてたのだ。それが今日いよいよ始まるのだ。2708で出るまさちゃんに「頑張ろうね、とにかく楽しもうね!」と声をかけガシっと手を取り合う。本当は自分に言い聞かせているんだけど。
風はかろうじて南から吹いていることがわかるくらいで殆ど無風。回答旗が揚がりしばし風待ち。薄日が射してきて、そよそよと風がやってきた。下有利のラインだがもちろんそう簡単に水は無く、下寄りの空いているところを探しジャストスタート。したんだけど・・・みぃぃぃーーーーんな出ている。当然ゼネリコとなる。2度目も同じように下艇団が引っ張ってしまいゼネリコ。ついに次のスタートはZ旗が揚がり得点ペナルティの1分間ルールとなる。ゼネリコの嵐ですっっかり緊張もほぐれ、微風の中をスタート。風拾いレースとなるが、風がどこにもなーい。いっちばん左に一筋のブローライン。いっちばん右は死んでる。わたしたちはやや左寄りのコースでまずまずの所。ヒソヒソ声で風探しをし、すこーしずつ前へ詰め寄るが、途中でついにセールがバッタバッタと言い出し漂い始める。そのうちバサっと左に振れ、殆どアビーム状態になる。左のラッキーなブローラインに乗って行った艇団だけが上マークに到達し、クローズに近い角度でサイドマークに向かっている。ん?あれぇ?あの三番手で回ってるの、もしかしてオギャワっちー!?(同じ大成軍団のフネ)と目玉が飛び出す。すげえ、がんばれぇ、と自分のレースも忘れて凝視している所へ「プァ〜〜」っとホーンを鳴らしながらN旗を揚げたマークボートが走り過ぎる。あぁ無情。
その後も風は吹く気配ナシでついにH旗が揚がる。ロッキングしながらみんなでハーバーに帰ってお昼を食べながら風待ちをすることになる。
雲行きが怪しくなったと思ったら、風が吹き始めた。本部前の回答旗が降りたので、再度出艇。小雨が降る中、レース海面に到着。忙しく振れ回り運営艇泣かせの風だ。何度かスタートラインの設営をやり直し、午後2時近くになってようやく仕切り直しのスタートとなる。お約束のゼネリコが何度かあり、もぉいい加減にしようよ〜という雰囲気が漂い、ついにブラックフラッグ(失格)の1分間ルールとなる。
スタートはやっぱり厳しくて、なかなか思い通りの所に入ることができない。数が数だけに半挺身遅れてしまうとヨレヨレの風の中でどうしようもなくなってしまう。それから、風拾いもいいけれど、やっぱり回りのフネとのポジションを良く見ておかないと一振れで大きくやられることがある。もちろんビッグゲインの可能性もあるわけだけど、皆経験豊かなワールドセーラーなんだから、やっぱり自分と逆タックの時は何かあるワケで、やられるというよりも、自滅という感じかな。当たり前のことだけど、ボートスピード、角度、風の振れ、ブローの吹き出し、局地的なパフとラル、波、潮(あるんです浜名湖も結構)、それから最も重要と思われる他艇とのポジショニング、全てを気にかけるのは本当に難しい。っていうか全然ダメ。(笑)
とにかく初日はものすごく長い1日であった。成績は46位。まぁこんなもんでしょうか。上りでのコースミスを減らせば、もうちょっとだけ前を走れる手ごたえってとこかな。
2日目・雨、雨、雨・・・ 秋雨前線が停滞していて朝から雨。それもかなりの土砂降り。公式掲示板によると、今日は3レースやるかもとのこと。ウエットの上にスモッグを着込んで出艇。風は例によって南寄りの微風。うーん、雨なんですよ、雨、雨、雨。・・・あり?(汗)いやはや、レースのことはあんまり思い出せないんです、かかか。長い方のコースをだな、2レースと、短いやつ1レースでヘロヘロになっただよ。前日に続き、思い通りのスタートをさせてもらえなくて、わたしのコース引きでそこから這い上がるのはやっぱ無理というか、余計ドツボるというか、やっぱりまずまずのスタートを切って、わたしもコースで大外しをしないで順位をキープっていうのが条件なんだけど、どうも噛み合わなくて師匠にも迷惑をかけてしまった。
あっ!思い出した。舵のキンちゃんこと金井さんの艇に上マーク回航で後ろから追突してしまったりした!。相手はB旗を揚げなかったんだけど、眉毛で風を読む仙人(失礼!)秋山さんが乗り込むジュリーボートがじわりじわりと着いて来ている様子。ジュリーから第三者抗議というのが出されることもあるそうなので、720度回って解消。よっしゃここから挽回さ!と意気込むけれど、時既に遅し。この第2レースがシリーズ中最低の成績となる59位という大タタキであった。
雨&へなちょこ風でテルテールがピトッとくっついてしまい、リーチングのトリムは結構苦労した。普段からクルーザーでもディンギーでもセールカーブを目に焼きつけてトリムするように言われているのに、テルテールの判定がないと、やはり自分のトリムには自信が持てない。最後のレースでは少し吹き始めてテルテールが流れるようになったんだけど、それと比べるとやっぱりオーバートリムだったかもしれない。反省。っていうかこればかりはもっともっと練習しないと・・・。
結局第3レース49位、第4レースはブラックフラッグで失格艇が10艇ほど出たこともあり、走りはそれほど良くなかったけれど35位とこの日は3レースを消化。朝から出ずっぱりでハーバーに戻ったのは17:00近く。本当に消耗した1日だった。体重が減り始めたのも、指の関節と膝が痛み出したのもこの日あたりから。
3日目・本日も雨。台風接近中 レースもいよいよ中盤に差し掛かる3日目。天気予報では台風19号が今夜にも九州に上陸すると伝えている。浜名湖はまだまだ静かで、昨日までと違う東寄りの風、7〜8ノットといった所。今日は順調にレースを消化できそうだ。台風接近の為、残りの日程が予定通りに行えないことも考えられ、今日も前倒しで3レースを行う予定。
第5レース、スタートは下有利。でも例によって下はぎっっっしりとフネがひしめき合っていて、とにかく水が無い。真ん中の空いているところから出るが、ベストスピードで出られずシットエアを浴びてタックを余儀無くされる。で、スピードも無く十分なロールタックができなくて失速。止まってしまう。とにかくスピードを回復すべく暫く右へ伸ばす。真ん中がラルなので右で勝負するしかなくなってしまうが、結果的には左がかなり伸ばし、大きくゲインされる。上マークではビリからシングルって感じ。リーチングでは、絶対にこの左のブローラインを使おうと落として走り随分差を縮める。2上でも左がどう見てもいい。それもずっと左。艇団の左側をキープしようと、スターボを伸ばして一番左へ。ちょっとバクチを打ってみる。いいパフを拾い、風はお誂え向きに南に振れ始める。面白いようにウルトラリフトが続き、あっという間にビリっけつの方からごぼう抜き。上マークでミートしたフネが「え?いつ来たの?右行ったの?左行ったの?」と目をパチクリするくらい。3上でもまた左を攻める。調子に乗り過ぎてまたフリートの一番左に出る。「アイツらばかだ」きっとそう言われていそう。マーク変更されていたので危うくオーバーセールという所だったけど、少し落としてスピードモードでアウターにシュート。大バクチ大成功の巻。でもこんなことそんなにあるもんじゃない。もうコアイからこんなのやめとこ。ボロボロのスタートから大躍進の34位。
第6レース、明らかに15度以上下有利のライン。どうみても即タックだ。師匠と話し、思い切ってスピードを付けてポートスタートを試みた。これがなかなか上手く行き、先頭集団について行く。上りレグで他艇に比べて無駄な(その時は無駄だとは思ってなかったんだけど)ショートタックが多かったため、少し離される。というか、前を走るような人たちは相当上手い人たちなので、そのフリートの中でゲインする走りをするのは至難の業。わたしがカモれるような相手ではないのだ。こんな時はなるべく同じタックを走りながらコースの中央を使いポジションをキープしていくしかない。フリーで先頭は右と左とに分かれたが、左の方が走っている感じだったので、(後ろを走るの者の特権)ジャイブセットで左海面を使い、これで上りの遅れを挽回。このレースはミスもなくレースの駆け引きを楽しむことができた。22位でフィニッシュ!師匠に「良くやった」と頭をこねくり回される!うゎーい!バンザーイ!上手く行った!
上マークを回航するTiki号第7レース、スタートはまずまず上手く行ったが1上レグでどっちに行きたいのか、明確なプランがなかったため、何となく続いた小さなリフトで右へ伸ばし過ぎてしまう。上マークアプローチでは、左からのポートアプローチの場合、入れる場所があるかヒヤヒヤドキドキなので、ついつい長めのスターボでのアプローチになってしまいがち。これでは一発のヘッダで死んでしまうし、途中からどんどんどんどん、どんどんどんどんポートアプローチのフネに割り込みタックを打たれて、ヨレヨレの風の中での走りを余儀無くされる。で、結局シットエアを浴び落とされて入れないという悪循環。せっかくいいスタートをしてもらったのに、コースがまずくて残念なレースとなる。44位。
あっという間に3日間で7レース消化してしまった。ハーバーに戻ると2708の交代クルー・ヨネちゃんや舵誌の森下アニキが到着していた。残すところ3レース・・・。いいレースをしなくては。
夜な夜なパーティー 何が楽しいって、やっぱり毎晩のように繰り広げられるパーティーでしょう。昼間のアツイレースの後、夜はハチャメチャに楽しい世界中のテーザーセーラーと夜な夜な盛り上がる。良く食べ、良く飲み、良く笑い、最高に楽しいワールドの雰囲気を毎日おなか一杯に満喫した。パーティの無い晩も、みんなで集まって焼肉食べまくりの会など。
「日本の肉はなんでこんなに薄く細く切ってあるんだ?」
「これは本当にビーフか?サルの肉じゃないだろうなぁ」
「でぃすいず、こりあんばーべきゅーネ」などと国際交流。英語なんか流暢に話せなくったって、酔っぱらってしまえば何のその。けけけのけ。
東急サニーガーデンでのバーベキューパーティにて。真ん中はオランダの歯医者さんジョンさん。盛り上がったのはジャパニーズナイト。稲毛フリートの企画で風流な日本の雰囲気を演出し、じょっしーは浴衣姿、手作りのうちわを配ったり、鶴を折ったり、日本酒をいただいたり。そこに突然乱入してきたのはクマちゃん扮するセクシーバドボーイ!まぁ写真を見ればおわかりでしょうが・・・。絶好の被写体となった彼の写真は、今頃は海を渡って世界中に散って行っただろうなぁ・・・。
禁断の写真を見たい方は・・・こちら(いいんですか?ホントに)
レイデイ金曜日は待ちに待ったレイデイ(お休み)。わたしたちの宿舎は「東急ハーベストクラブ」というすごくステキなリゾートホテルなんだけど、レースはハードだし、基本的にいつも時間に押されていて、なかなかゆっくり過ごすことができない。あーもったいない。特筆すべきは大浴場で、露天ジャグジーがあるお風呂と、ミストサウナがあるお風呂が男女交互に日替わりで楽しめるようになっている。休みの日ぐらい朝風呂を!ということで、露天ジャグジーで思いっきりふやけてみる。朝食もずーっとコンビニ系が続いていたので、一度ぐらいホテルのレストランで美味しいコーヒーを飲みながら朝食をとろうよぉ、と二日酔いの大ちゃんを一人部屋に残し優雅なひとときを過ごしたのであった。
疲れたとかなんとか言ってても、なんだかんだ言ってみんな体力が有り余ってるようで、せっかくのお休み、台風来てるけど取り敢えず観光しなきゃっ!てことで「竜ケ岩洞」という洞窟へ出かけた。夜はナント贅沢な!現地入りした時から目を付けていたフレンチレストランで豪華ディナー。
残すところ2日。ワールドなんだから当然だけど、レースはやっぱり大変。失敗してブルーになったり、納得行く走りがなかなかできなかったりで色々あるけど、このワールドを楽しもうという気持ちが一段と強くなってきた。一生の想い出になるであろう貴重な時間を、今みんなと過ごしているのだ。だからなんだか皆とってもイイ顏している。リフレッシュして気持ちがシャキっとしたレイデイであった。
4日目・2つのハプニング 台風一過、久々の太陽と真っ青の空。いよいよワールドも終わりに近づいている。昨日の夜、ヨット部の取材に来てくれた舵誌の森下アニキと荒田カメラマンがやってきて写真を撮ってくれるという。残り3レース、いいレースにしたい!という思いからみんな自然にガッツポーズ。週末ということで、今日と明日は寸座ビラからカタマランクルーザーの観覧艇が出るようだ。ヨット部からも応援団が到着。
ハプニングの1つは出艇時。そろそろ出る時間となり、ブーツを履きグローブをはめてゆっくりTiki号の方に歩いていったらフラフラと歩いて来るのはヨネちゃん。今日からまさちゃんと交代して2708のクルーとして出るのだ。??どうしたんだろ、さっき出ていったのに、と思って声をかけると、頭から流血している。ひぇえ、血には弱いのだ〜。「大丈夫!?」と訪ねると、しっかりしている様子なので、とりあえず本部に連れて行く。本部の人が救急箱を持って駆け寄ってきてくれて、そのうち看護婦さんでもある江ノ島のえみさんが来て傷口を見てくれた。わたしは何もできずにオロオロしているだけだったんだけど、傷が深くないので血は間もなく止まるだろうということと、頭を打っているので気分が悪いようだったらすぐにやめること、などの注意を受けて一応大事には至らなかった。ホッ。テーザーのブームエンドは斜めに切りっぱなしになっているんだけど、艇に乗り込む時ブームが暴れてそこが頭を直撃したらしい。しばらく休んで大丈夫そうだったら出るとのことだけど、でもあの傷じゃ相当痛いだろうな・・・。大丈夫かな・・・。心配しながらわたしも出艇。せっかく今まで練習を重ねてきたんだから、ケガでリタイアなんてつまらないもんね。うん、気を引き締めて行こう、と呟いてレース海面に向かう。
第8レース、今日は初めての西、8〜10ノットとまずまずの風。事前の情報によると、「西の吹き出しは右から」とのことだけど、今の所安定して全体的に吹いている感じ。中央下寄りから今までで一番いいスタートを切る。早めショートタックで右に寄せた艇が多く、すぐにフリートの左に来てしまった。「前を走っている時は尚更フリートから離れるな」って鉄則が頭をよぎりタック。このタックで艇団の真ん中に入りたい気持ちばかりがはやり、艇団の左半分を逆タックで横切るような展開になってしまった。それもミート艇をディップして除けてまで。あーぁ、何やってるんだろう。せっかくのいいスタートをあっという間に台なしにしてしまった。目先のことだけに捕らわれ全体の展開を読むことができなくて、いつもいつも失敗している。くやしい。レベルが逼迫しているレースでは、ほんの少しのミスで途端に置いていかれてしまう。師匠に申し訳ない気持ちと自分のふがいなさで思いっきりブルー。
そんな気持ちでいる時はトラブルが重なるもので、挽回すべく最終の上りレグ、下マークを回ってそのままポートで走り始めた直後、ジブ裏にスターボ艇がチラリ。気づいた時にはもう遅く、向こうのバウをどてっぱらで受け止めてしまった。ガッツーン!と観覧艇の目の前でものすごい音をたてて・・・。目の前が真っ白になる。まさかあの位置でスターボ艇が来るなんて思いも寄らず、全く気にかけていなかったのだ。こちらはガンネルの付近だから穴は開いていないようだけど・・・。ベアしてスペースを作り720度。ぼう然としてしまいドタバタとジブを返しているだけ。まわりのフネがどんどん通り過ぎ、後ろがさびしい位置から最後の上りを走りはじめる。相手はわざわざオーストラリアからこのワールドのために一時帰国してやって来た矢部夫妻であった。チャーター艇らしいけど、たぶん壊れているだろう。情けなくて悔しくてフィニッシュした途端に涙が止まらなくなってしまった。観覧艇も見ているのに。第8レースは何ともにがにがしい 58位・・・。
第9レース、矢部夫妻がリタイアするようならこちらも出るわけにはいかないと思っていたけど、バウにガムテープで応急処置をして参加する模様。このままの気持ちで終わらせるのはヨロシクないので、矢部さんにお詫びをし、気持ちを入れ替えて頑張ることにする。第9レースがどんなレースだったかは、ホントにホントに思い出せないけど、39位で終えた。
帰るとハーバーの突堤にビール先生が来ていた。何となくホッとして家に帰ったみたいな気持ちになった。話したいことはたくさんあるのだ。こんなわたしでもいっちょまえにレースしてることを色々話したかったけど、今日は色々ありすぎて言葉が詰まってしまった。2706のおぎゃわっちも帰ってきて、みんなの顏を見たら情けないけどまた涙がポロリ。赤鼻の泣きっ面&潮ガビの顏をゴシゴシこすってから照れ笑い。ふーーーーっ。やっぱワールドは甘くないね。なんてったってワールドだかんね。
大成建設ヨット部チーム。
前列左からクマちゃん、なんちゃん、アタシ。後列左からおぎゃわっち、大ちゃん、ヨネちゃん、まさちゃん
5日目・最終レース ドツボの方程式ついに最終日となった。うまく行ったレース、へくったレース、色々あったけど、とにかくあと1レースでおしまいだ。何とかいいレースにして気持ち良くワールドを終えたいものだ。欲を言えば一度くらいは10番台とかとってみたいなぁ・・・なーんて思いながら出艇。
今日は最終日、そして日曜日ということもあって、観覧艇もてんこ盛りの人。ビール先生をはじめ、森下アニキも、えみっちも、大成応援団もみんな見ている。人のレースを丘番で観覧することはあっても、こんなにたくさんの知ってる人が見ている前でレースをするなんて初めて。最初で最後かもな。風は西、周期的にブローが吹き下ろして来るけれど基本的には微風。風向が定まらず、何度かマークを打ち直してスタート。スタートはゼネリコが3回。そのうち一度は抜群のスタートだったのに残念。既に優勝を決めているベン&トーマスは、はなっからビデオを撮ったりビールを飲んだり余裕・・・。ブラックフラッグが揚がった2度目のスタートで飛び出し失格となる。まぁわざとなんだろうけど、観覧に来たギャラリーのためにも最後にもう一度あのクールな走り、ダントツのボートスピードを見せて欲しかったな。
師匠の判断ではブローの周期は8分くらいの間隔ということで、今はなくてもスタート間際に左から吹き始めるのでは?とのことで下からのスタートに決める。上位陣が執拗に上を取りに行っているので何となく右が気になるんだけど、やっぱりフレッシュエアをもらって飛び出した方が後々の選択肢も広がるし、ということで下から悪くないスタート。この時風はコース全体に均一で順調にスターボを伸ばしていった。タックはできそうにない。下スタートって、余程飛び出さないかぎり、まずこのタックできないというストレスを乗り越えて上手い通り道を考える所から始めなくてはならない。返したらミート艇の処理でディップしたり悪い位置でのタックを余儀なくされたりで順位を落とすか、返すタイミングを逃すと左にいつまでも伸ばし過ぎたり・・・。今まで下スタートでうまく行ったことって・・・殆どないなぁ・・・。
そうこうしているうちに下から来たオランダのウドさんに上り殺される。スピードも角度も全然違った。圧巻である。昨日に引き続きチョッピーな波に叩かれ気味だったので、気にせずジブも気持ち出し気味にしてスピードモードで行く。この時右からブローが入ってきていたのを見逃していたのが第一の失敗。進むにつれてどんどんリフトの風。このままコースエンドにいるのはキケンなので、一度は我慢して返すけど、あまりのヘッダに耐えきれずまた戻す。行けば行くほどますます右に振れていて、当初から比べると20度くらいのリフト。だから殆どの艇がスターボを伸ばしている最中。そんな中、一人ヘッダの中を逆タックで走るなんてとてもとてもできなかった。もっと最悪なのが、その先、左にはラル地帯が広がっていたのだ。泣きたい気持ちでタック。こうして左にポツンと残されることになってしまった。しかもマークはすでに正面。これから延々とラルの中をポートでアプローチをしなくてはならないのだ。今までのレースでもコースミスはたくさんあったけど、こんなことになったのは初めてだ。後ろを振り向くと本当に、2艇しかいないんだから。絵に描いたようにドツボに陥ってしまったのだ。
師匠とコースのことでケンカ。ついクソ生意気なことを言ってしまいフネの上もシラ〜っとする。二人とも逃げ出したい気持ちなのだ。うぇーん、もう帰りたい。観覧艇では色々言ってるんだろうな、森下アニキなんかそこいらじゅうの人に実況中継とかしちゃってるかもしれない。ビール先生も頭を抱えているだろうなぁ。チキショー!観覧艇!あっち行けぇ!見せ物じゃないやい!って見せ物なんだけど・・・。本に書いてあるようなセオリー、頭でわかっていても、実際なかなかうまくは行かない・・・。
上マークをビリから3番で回る。挽回しようにもその前の艇団は遥か遥か前。でもね、せっかく頑張ってやって来たワールド、こんな最悪な結果では終わらせたくないよ、やっぱ。「絶対に下マークまでに前の艇団に追い付く!」と話し合い、それからはもう超超超集中モードで口を開けっぱなしでトリムする。師匠も時折来る波にうまく乗せて走らせ、信じられないけど、本当に下マークまでに前の艇団に追い付いた。自分たちもびっくり。次は上り。サイド航で見るかぎり先程と同じように上に近づくほど右に振れている。今度は絶対先に右に突っ込んどこうと思って、注意深く振れ幅を見ていて、目先のヘッダはギリギリまで我慢してみる。で右からスターボを長くとりアプローチすると案の定、どんどんリフトしてレイラインに乗ってしまった。ここでもゲインし、完全に集団の中に食い込んできた。前の方を走っている時は、ポジションをキープするのに色々な駆け引きがあって神経を磨り減らすけれど、後ろの方では、注意深く風の振れを分析したり、ランニングでのジャイブポイントを確実に押さえれば結構簡単に抜くことができる。ランニングでもゴボウ抜きしたんだけど、3度目の上りを終えると、なんとS旗が揚がってフィニッシュラインが設定されている。あぁ残念。もう一周あればもう少しだけ前に行けたかも知れないのに。ビリ3から15艇抜く快進撃で55位で最終レースが終わった。
フィニッシュラインを切ったあと、何となく観覧艇から視線を感じる。ビール先生がきっとカメラを向けているんだろうけど、わたしはうつむいたまま顏を上げることができなかった。失敗して恥ずかしかったのもあるけれど、本当はどんな顏をしていいのかわからなかっただけ。でも気分はすごく晴れ晴れしていたよ。
後々語り草になるようなレースとなり、神様ってホントに意地悪だなぁって思ったけど、このレースのこと、わたしは絶対に一生忘れないと思う。思い出すと今でもょっとニガニガしいけど、そのうち笑い話になって、おばーちゃんになっても懐かしく思い出すに違いない。その頃もずーっとヨットを続けていたとしたら・・・すごくステキかも。
成長したアタシ 9日間のワールド期間中、泣いたり笑ったり回ったり (720度-_-;) 色々なことがあり、本当に感慨深いものがある。今まで約10年間のお気楽ヨットライフの中で、間違いなく一番の貴重な体験だった。もちろん、まだまだへっぽこだけど、だんだんとレースの亊もわかってきた。今まで知らなかった難しさと面白さが両方いっぺんにワッ!と目の前に広がってちょっとクラクラするくらい。誰よりもいい経験ができたと誇りに思うのと同時に、わたしのこれからのヨットの未来が果てしな〜く広がってくような感じがするのだ。とりあえず、ここでの亊は全部箱にでも入れて持って帰って、大事にしまっておきたい。そして時々それをちょっとずつ引っ張り出して、思い出したり考えたりしながら、一生の財産としてこれからもずっと大好きなヨットを続けていこうと思う。
わたしもすっかりフレンドリーで楽しいテーザーフリートの一員となり、テーザーの魅力にも取りつかれた。わたしにこんなにスバラシイ機会を与えてくれた関係者の皆さん、わたしの周りの皆さんに今は感謝する気持ちで一杯。
大成じょっしーチーム。まさちゃん(右)、ヨネちゃん(左)、楽しかったよ。レースリザルトは紙切れたった一枚だけど、それだけで片付けるには大きすぎる9日間。参加した選手それぞれの胸に、それぞれの想いがあると思う。
Cool Drive , Smart Race! わたしが以前、夏のクルーザーレース(お遊びレース)でヘルムに挑戦する時に、仲良くしてもらっているあるヨットの先輩がこのフレーズをわたしに教えてくれた。
Cool Drive, Smart Race!
〜フネをカッコよく走らせて、
スマートにレースを楽しもう!〜という、わたしのお気に入りの言葉。
ワールドに参加して、わたしは一種のカルチャーショックを受けた。それは外国人選手達の取り組み方が、ちょっと今までの私達とは違っていたからだ。まさに、この言葉を地で行っていて、みんなクールでスマートで(体型がじゃないよ)、だけど明るくて、余裕たっぷり。そしてレースをめちゃ楽しんでる。しかも速かったりして。そして丘に上がればハチャメチャな能天気セーラー。
79歳のフランクベスウェイトでさえ、「うぉ〜〜っ!」とか雄たけびをあげながら、歯見せてかっ飛んでるのだ。丘に上がるとあんなにおじいちゃんなのに・・・。やっぱり楽しくなくちゃヨットじゃないよね、と思うんだけど、そこまで余裕が無いのがわたしの現状。じゃぱにーずぴーぽーは何かにつけて、ちょっと頑張りすぎかもしれない。わたしもこれからはあんまり頑張らないように頑張らなくちゃなー。・・・あり?
オリンピックを目指すような人は別だけど、わたしにとってとにかくヨットは遊び。自分の為だけに、好きなだけやればいいんだ、きっと。ストイックにやる事が美学なんかじゃない。人より上手くなりたいとか、レースで前を走りたいとか、そういうことのためだけに練習するんじゃなくて、楽しくセーリングをして、好きなだけ、納得行くまでやればいいんだ。そういう自然な取り組み方をしていて、しかもレースで速かったりしたら・・・。ホントにカッコイイ。
そんな風に認識を新たにしたのは、やっぱりテーザーフリートのフレンドリーでアットホームな楽しい雰囲気のおかげ。24歳のベン君と20歳のトーマス君のダーウィンボーイズは評判通り、目を見張る速さだったけど、そういう若者や一流の選手たちもいれば、夫婦も親子もレディスペアもいて、みんなそれぞれのレベルで、気後れすることなくレースを思いきり楽しめるフリートなのだ。
イギリスで会おう テーザーの魅力はまだまだ語り尽くせないけれど、本当に素晴らしい大会だった。湖特有のシフティーな風の中、マークの打ち替えに奔走し、一生懸命運営をしてくださった地元の方々、一切合切を全部面倒みてくれて、そして自らもワールド2位という成績をおさめた稲毛の田中ご夫妻、その他たくさんのボランティアの力でこの手作りのワールドは成功に終わった。とっても印象的だったのは、やはり最終日。前日にケガをしたヨネちゃんを乗せた2708大ちゃんが最終レース、トラブルに見舞われ、前の艇に大きく水を空けられた。それでもリタイアせず最後のフィニッシュとなった。マークボートも観覧艇も本部艇もそれまでみーんな帰らずにフィニッシュラインで待っていて、フィニッシュしたら一斉にフォグホーンを鳴らして大声援。このワールドの、最後のレースのフィナーレを温かく盛り上げてくれた。
その後バックステーに、参加したオーストラリア、オランダ、イギリス、アメリカ、カナダ、そして日本の各国の国旗を全て揚げて、フォグホーンを鳴らしながら運営艇がハーバーに戻って来た。みんな解装の手を休めて、いつまでも拍手が鳴り止まない。感動して、その時こう思った。
またみんなに会いたい。イギリスのワールドで! ご意見・ご感想はメールまたはゲストバースへ・・・ HOME