第16回 初島ダブルハンドヨットレース
木の葉のフネ、でいざ・・・ まぁ真面目な話ダブルハンドの場合、たった二人でレースするわけだから、どっちかがスーパーマンとかじゃない限り、二人のスキルが総合的にある一定以上のレベルになくちゃダメだろうなと思うし、みんな「こいつとだったら」という思いで相棒を選んでいるはず。だったらわたしも、4年前に比べてちょっとは信頼のおけるセーラーに近づいたって事?それとも単にビール先生は、自称スーパーマンなのか?!とうとう核心には触れないままレース前日を迎えた。 忙しくて目が回りそうな平日をやり過ごし、なんとか仕事を片付けて金曜の夜、横横をぶっ飛ばして葉山へ。今回のテーマは、"頑張り過ぎない・無理しない"。とにかく楽しく安全第一にやるって決めてるから、美味しいものをたんまり買い込んで、クーラーボックスはピクニックさながらにぎゅうぎゅうになった。あとは、丁度良い風と楽しい航海?を祈ってモギモギハウスのお布団に潜り込んだ。 午前4時半。ビール先生のムカツク着メロ目覚ましで起床。とても人を不機嫌にさせる着メロ。ひかり姉さんのひろみ郷の着メロ目覚ましに次ぐ気に障る着メロだ。今後一切の使用を禁止しよう。 ねぼけまなこでテラスに出る。前日吹き荒れていた風は・・・どうやらおさまった様子。そのまま屋上へ上がると、目玉の奥に装備しておいたバネが全開となる。ビロローン。シェー白波立ってる〜。しかも南西っぽい、初島まで真のぼりの風。予報では徐々に落ちることになってるのがせめてもの救い。まあいいや。とにかく初島を回って帰ってくればいいんだ。
マリーナに着くと、葉山から参加する9艇がそろそろ艤装を開始するところ。クレルドリューンは北海道から来たヒグマ、嘘ですごめんなさい、トオルさんと岡田オーナー。O&Sは小林さんと心のチームメイト(チーム・オダゴンズ)のぐっちー。ガイアもぎもぎ&野崎御大、チャーボイはオリンピックコンビの浜崎・山田ペア。ほかにも魁、クレセント、ハートオブニッポン、うちよりチッコイTomboy。
6時にドックアウトしようと思ってたけど、モタモタしてるうちに15分過ぎてしまった。なんでも二人でやらなくちゃならないから、普段より一つ一つにずっと時間がかかるんだった・・・。焦らない、焦らない、でもちっと焦る。大波の中を2人で出ていく。日没までにここに無事戻って来れるかな・・・。 波は悪いし、チッコイし、レース海面が思ったより遠かったので、スタート海面にたどり着いた頃には予告信号ギリギリの時間になっていた。うっかりしていてサブハリヤードがバウパルピットにつけっぱなしになっていて、焦って片付けにいくけれど絡まって下りなくなりますます焦る。吹いてるので前と後ろで大声を出さなくちゃ聞こえないし、手が足りないから何かとイライラする。「コレ引いて〜!!」なんて言っても誰も引いてくれない(笑)。ここから先は、慌てない、急がない、イライラしない!とにかく落ち着いてゆっくり確実にやればいいさ、とキモに命じる。頑張りすぎずに、いつもちょっとだけ心に余裕を残しておこう。 予告信号が揚がる。辛うじて時計は取れたけど、まだメインも揚げていない。やっぱり出る前にジブをセットしておけばよかった〜。この先長いのに、セットしに行くだけで、もう頭からずぶ濡れだ〜。でもでも、デッキワークは大変だからきっと交代でやるんだよね?・・・ と、この時はそう思って疑わなかった。 何しろ全てがぶっつけ本番で、二人でフルセールで海に出るのなんてテーザー以来(笑)。そしてスタートする頃にはバウで波をかぶることなんて、そんなこともうどうでもよくなっていた。なぜならば、もうすでに全身ずぶ濡れだったから。スタートはバタバタの修羅場でアウターなんて一度も見なかったけど、とりあえず時間どおりにコミッティボート寄りから出る。余裕があればもっとカミから出たかったけど、アウターがどこにあったかも知らないまま48マイルのレースが始まった。
並走するテンダーに大坪さんが乗ってる。いつだったかレースでお会いした時にダブルハンドの実施要綱をもらい、冗談半分に出てるみか、なんて言ってたんだけど、本当に出ることになっちゃった。近寄ってきて、激写?される。まるで仲良しフーフみたいに見えるに違いない。年賀状に使おう。 スタート前に一瞬風が落ちたので、No.1を揚げようかと思ったけど、やっぱり考え直し安全めにNo.3で行くことに。ふー、よかった。だって落ちたのは一瞬だけで風ブイブイ吹いてるもん!
メインはフル、でもトラベラーはもうすでに結構落とし。
こんなに吹くなんて、聞いてないよォ〜!(泣) ・・・と思ったのも束の間、また黒い雲の下に差し掛かると頭から波をかぶるようになる。再びカッパを着込む。 か、風が、つ、強いような気がする・・・。 さっきよりブイブイ吹いてるのでメインを目一杯逃がす。そろそろ初島が見えて来たし、様子をみながらもう少しだけ我慢して走ることにする。 ふと周りを見て、ここにいるフネみーんなが二人だけで走らせていると思うと、なんだか笑っちゃう。土曜の朝っぱらから何やってんだ?普通の人はまだ温かくて乾いて揺れない布団の中でヌクヌクしているか、コーヒーをすすりながらパジャマで新聞とか読んでるっていうのに・・・。アンタたちみんな変人?あ、自分もか。 その後も風は相変わらず強く、波も非常に悪い。どうしようか、チェンジ・・・。これじゃ走れないもんな、と思っていた矢先、 バーンとものすごい破断音。 続いてヘッドセールが落っこちてくる。 ああ、ジブハリ切れた・・・。やっぱり切れた・・・。 先週もドンブキの中レースしたので、もうアチコチ悲鳴をあげていたんだう。でも何故か冷静。そうよっ、サブハリを使ってついでにセールチェンジするわ〜ん!バウハッチからまたNo.3を引っ張り出して、ジェットコースターみたいなバウで、飛ばされてあちこちへぶつかりながら、へさき労働に従事する。波でグシャグシャなのでずいぶんと時間がかかってしまった。でも危ないからもう開き直ってゆっくり。 労働を終える度にヘトヘトになり、しばらくは息がきれて何もできない。 ・・・ デッキワークは ・・・ 交代でやるんじゃ ・・・ ないのか? ぜぃぜぃぜぃ ・・・ その後、ジブハリ切れたのはきっと神のお告げだと確信する。「お前らこの先もっとすごいことになるから今のうちに変えておくんじゃーっ。」と言うお告げ。天国の子上さんの仕業かも・・・。崩れた波に横からあおられて、次の瞬間ドッカーン!と急降下。キャビンの中からガッシャーン!という音。トイレのドアが開いちゃってバッコンバッコンぶつかってるし、物入れの扉も開いて中のものがそこらじゅうに散乱。 ひぇー、もうフネ壊れちゃうよ〜。 ジブハリトラブルでずいぶんロスしたのもあるけれど、そろろそ後ろが数えられるくらいになってきた。ちびっこだから、こればかりは仕方ないケド。チビ黒セール、未だ見つからず。もしかして前に行っちゃったなんてことあるのーーー??? 一際強いブローが入り、バタバタ逃がしながらただしのぐ。もうやり過ごすしかない。これ以上強くなったらリーフしよう、ということにして、それまでは根気良くめげずに行くことにする。ひどいコンディションだけど結構元気。サンドイッチは作れそうにないから、冷え冷えトマトにかぶりつき、鎌倉ハムのパストラミビーフを手づかみでバクバク食す。 ウメー! やっぱ食べ物たくさん買ってきてよかった〜。いつもはコンビニおにぎりだけど、こんな中コンビニ食ではちょっと気が滅入っちゃうしー。byくいしんぼう。 初島のアプローチをどうしようか考え始めるけれど、とにかく逃がしながら走るのが精一杯。真鶴につっこみすぎると凪につかまりそうだけど、この風より凪の方がマシじゃない?って感じ。はるか向こうでもうスピンが揚がってる。先行艇がお昼前に早くも回航したらしい。やーん、速すぎー。ジャイブして岸に寄せたさち風とすれ違う。クルーはビール先生の知ってる人、オカヤスさん。大先輩のジョッシーセーラーだ。しびれるゥ〜。 初島へは結局ずいぶん岸寄りからのアプローチになった。徐々に風が落ち着き、初島手前のいつものひょろひょろエリアにやがて到達しそう。はるか前のフネがあさっての方を向いて止まって見えるので、あそこらへんが凪なんだろう。タックするたびにミートしてきたKAMAKURAとJ/24チヒロがタックしてスタンをかわし沖へ出て行った。うんと岸を見ると、そこそこ走っている様子。ホビーホークはそのまま伸ばすことに。 結局、昼以降に初島にとっついたフネは、多少の差はあれど、どのコースをとっても20〜30分はひょろひょろ風の中を漂うことになった。カッパ脱いだり着たり、着たり脱いだり。やっと風が入り始め、また勢い良く走り出した。でもこれで前の集団には随分離されただろうな。フネが平らなうちにトイレも昼食も済ませる。
うりゃ!度胸一発ジャイブ〜! 風がないわけじゃないけど、スピンがうねりで翻弄されて潰れ易いので、片時も手が離せずストレスのたまるスピンラン。何度となくフォアステイに巻きそうになり、慌てて前にすっとんで行く。ブームも暴れて頭の上を通り過ぎては慌てて戻したり。落ち着いて走れずにイライラが募る。 あ゙〜、ブーム押さえロボット君が欲しい! その後、初島からある程度離れると、後ろから黒い風のかたまりがやってきて、バーンとスピンがはらむ。突然のプレーニング。うぉー、若干ビビリ気味だけど、まだ余裕あり。 周りのフネはゼファー、チヒロ、モーニングスターなど。一応、こっちより大きいフネたち。そろそろジャイブを入れることにする。スピンとガイをウインチにフィックスし、ポールを返す。ビール先生は股にティラーをはさんでメインを返す。うりゃー!度胸一発ジャイブー!!・・・スピンは潰れることなくうまくメインが返った。ホッ。大成功の巻。 暫くして風が急に前に回り、スピンが騒がしく暴れはじめる。その後も裏から入ったり前から来たりで四方からメチャクチャの風が入ってくる。さっき初島一斉再スタートをしていた先行集団はぐんぐん沖出ししているけれど、ここらへんは完全に風が前にまわってしまい向けられない。だめだー、もう向けられない〜。合わせるとあさっての方角をむいちゃうし。限界だからスピンダウンすることに。まわりのフネも慌てて降ろしている様子。 またわたしか?と強い疑念を抱きつつ、でもそうもしていられないので、バウへすっ飛んで行き、スピンを引きずり下ろす。途中まで降ろしたところで後ろから 「やっぱ、戻った戻った、もう大丈夫!」 の声。慌てて再びホイストする。風は結構息をしていて、プレーニングしてると思ったら、急にヘロってきたり、また戻ったり。どうやらこのまま落ちていくらしい。あとで考えればここが分かれ目だった。
夕焼けスピンラン あとで聞けば、すぐ前を走っていた艇団は、最後の吹き出しに乗って一時は20ノットオーバーの豪快なスピンランでフィニッシュまですっ飛んでいってしまったらしい。わたしたちのまわりは、8ノット程度の心地よい風に乗って夕焼けの中、気持ちの良いセーリングになる。 ローストオニオン入りソーセージと冷え冷えジャスミンティー、パイナップル、オレンジなどを食し、すっかりピクニック気分♪風落ちて前のフネは行っちゃったけど、かなりキモチいいぞ、とイイ気分になり鼻歌メドレーを口ずさみ(いや、熱唱しながら)スピントリム。 そうそう、実はとっておきの時のために一本だけビールを忍ばせておいたんだった。フィニッシュしてから飲もうと思ったんだけど、スピンから目が離せずに天を仰いでいる時、ビール先生の手がにょろにょろと缶に伸びていくのが視界の片隅に・・・。あーっ!悪びれる風もなくついにプシュー。ま、いいか。もうかなりのノンビリルージングになってきたし・・・。Brightenは米粒くらいに成長してきた。ムムム。 途中からずっと一緒に走ってきたのは優雅なスワン40セレナード。ポールをセットして観音開きだけど、バカデカジェノアなので結構いい走り。ピッカピカの豪華船で、ハルに波が映ってうーん、美しい。ちっこいフネでせこせことスピントリムしている自分たちが何だか下等な者のように思えてくる。 ちんまいピンクスピンがジャイブして寄せてくると、随分距離が縮まってしまったようだ。さっきまで米粒みたいだったのに、今はもうそら豆くらいだ。クーっ、沖は相当よかったのかも・・・。黙ってズルズルやられちゃったような感も否めないけど、ホビーホーク的には角度は向けられているし、スピンはじゅうぶんにはらんで順調な走りだったので、それ以上なにもアクションを起こす理由が見つからなかったの〜。 見慣れた景色の逗子が近づくと、むこうの方に黄色いフネが見えてきた。本部船ティブロン発見!昼までの修羅場がウソのように穏やか〜な海を気持ちよく滑らせながら、18時18分無事フィニッシュ。ホーンが鳴って二人でハイタッチ。やった、何とか日没前に帰って来れた!!!
ふー、乗員・艇体異常ナシ(ジブハリ除く) マリーナにたどり着くと、O&Sのグッチーがもやいを取ってくれた。よく見ると、もうサッパリお風呂に入って着替えてる〜!これで自分たちのフィニッシュが相当遅かったことを悟る。ガーン!一気に脱力。一時はO&Sのブラジル色スピンも視認できていたんだけど・・・。みんな風のあるうちに帰ってきて、相当速かったみたいだ。ホビーホークはスピントリムで一度もクランクの必要がなかった事を考えると、やっぱり同じ風でレースさせてもらっていなかったようだ。 ま、これもヨットレース。今回のように前の方が風があるうちに逃げ切ることもあるけれど、後ろから風と共に小型艇が追いついて大躍進なんてことも、別に珍しくはないのだから・・・。でも風吹いてたらジャイブもトリムもわたしにはきつかっただろうから、無事帰ってくるためには結果的には良かったのかな。みんな笑顔で迎えてくれて、ポンツーンに座り込んであーだこーだと話に花が咲く。ヘトヘトの体で片付けをしながらこっそり安堵に浸る。ふー、や・り・と・げ・た・・・。 その後葉山軍団のみんなで万紫味へ繰り出す。あんなこと、こんなこと、色々あったけどやっぱ楽しかったデス! そうそう、例の疑念はフィニッシュする頃には確信に変わっていた。始めの頃は、ダブルハンドっていっても一応男女ペアだしぃー、風強くてビビリバビデブーだしぃー、か弱いクルーとしては、「おい、ちょっと舵持ってろ、俺が行くから!」 なーんていう場面を想像していたんだけど、その淡い期待は完全裏切られ、まやかしに終わった。
「いやー、前を全部やってくれるからホント助かるよ〜」 などとお世辞でなだめすかされながら、セールチェンジにスピンの上げ下げ、度胸一発ジャイブに5時間耐久スピントリム。終日デッキをかけずり回り、アチキは本当にもう憔悴しきってしまった。
翌日は逗子マリーナでパーティー&表彰式。みんな、日に焼けて笑顔がまぶしい。ここにいるのはみんな、一緒に修羅場をくぐってきた仲間だ〜!葉山勢は大健闘で、参加9艇のうち3艇がクラス優勝、あとも2位、3位に入賞し、呼ばれないのはホビーホークだけだった(汗)。フリート対抗だったらダントツ優勝だったね〜など笑いながらも、わたしの顔はちょっと引きつっていたに違いない。 みんなが前に出て盾と賞品をもらい記念撮影しているのを見て大はしゃぎしながらも、本当はちょっとブルー。心の中で 「でもベストを尽くしたんだからマンゾクでしょ?」 と自分に言い聞かせる。
特別賞として、最高齢参加者のランカの石井さんが表彰される。今年もホビーホークの仲間でもある花井さんと一緒に参加。そしたら次に突然 自分の名前を呼ばれてビックリ仰天!! 参加艇45艇のうち、女性が乗っていたのはわずか5艇だったらしい。第一花丸のショウコさんやオカヤスさんたちと一緒に前に出てタラソテラピーの1日コース無料券をいただく。 スピーチしたら葉山のテーブルから歓声が沸いた。なんだか照れくさかったけど、みんなの気遣いがチコッとうれしかった。 フーフでのダブルハンドを終えて、なんだかミョ〜な達成感。男の人にはわかんないかも。わかんなかったら、自分の奥方が波かぶりながら痣だらけになってセールチェンジしているところを想像してみてください。え?ゾッとする??そんな野蛮なことさせない??? もう、ほっといとくりー! 目には見えないけれど、ちょっと違うもう一歩先の世界へ入れてもらった感じ。子供の頃、自分は将来商社マンと結婚して、庭付き一戸建てに住んで犬飼って、平凡主婦になると思っていたんだけど、ひょんな事でヨットの虫になってからは、なんともまー、ずいぶんと楽しく豊かな人生を送ることになったもんだとしみじみ思う。ま、これも楽しい仲間に恵まれたおかげです。 で、来年も出る?
本日のメンバー: 2人(あたりまえだちゅーの!)
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